しずかで深い小説との出会いをぜひ

2018年08月31日 書評
しずかで深い小説との出会いをぜひ

OFFです。

 

先日御紹介した本

「しずかな日々」

 

 

入試問題でよく使われる一冊ということで

よく知られているのですが

 

もうそんなことは関係なく

多くの人に読んでいただきたい傑作です。

 

個人的には

最近、一番感動した一冊になりました。

 

ネタバレにならない程度に

感じたことを書いてみます。

 

 

 

 

 

主人公の男性が

自分の小学5年生の時を回想する形で

物語が進んでいきます。

 

人生のターニングポイントになったのは

あの5年生の時だった、と。

 

それまでの少年は

お母さんと二人きりの生活。

 

学校でも存在感がなく

友達もいないどころか

いじめの対象にすらならない

まるで幽霊のような存在。

 

世界は

自分とお母さんの二人だけ。

 

もし、お母さんがいなくなったら

自分はどうなってしまうんだろう・・・

 

そんな不安が常につきまといます。

 

 

しかし、5年生になった初日

そんな自分をかまってくれるクラスメイトが現れ

 

「空き地で野球やるから来いよ」

と、人生で初めて遊びに誘われます。

 

なんで押野が突然ぼくに声をかけてくれたのか、ぼくにはさっぱりわからなかった。

五年生のクラス替えではじめて一緒になったばかりだったし、自己紹介からして、ぼくとはまったく正反対のタイプのような気がしていた。

ぼくの頭の中は、驚きと疑問でこんがらがっていたけど、なによりもただ単純にうれしかった。夢じゃないか、と思ったくらいに。

もしかして悪質ないじめかもしれない、という考えも少しだけ頭をかすめたけど、もしそうだったとしても、それでもよかった。だってぼくは、だれかにいじめられることすら、これまでなかったんだから。ぼくはだれの目にも留まらない子どもだった。いじめられるほどの価値もなかったし、どういう状況においても、だれかにちょっかいを出されることすらないような影の薄い子どもだった。

 

(中略)

 

「枝田! こっちだぜ」

びっくりした。自分の苗字をクラスメイトが大きな声で呼んでくれるなんて、今日はじめて会ったばかりのぼくに、まるで親友みたいに声をかけてくれた友人を、ぼくは考える間もなく好きになっていた。

 

(椰月 美智子著 「しずかな日々」より抜粋)

 

 

 

小学生の子どもたちの心理描写が見事で

「この椰月(なづき) さんっていう作家さん

並じゃないな・・・」

と、一気に興味が湧いてしまいました。

 

こういう場面、こういうやり取りっていうのは、小学生ならではじゃないですか。

中学生、高校生では

ほぼありえないシチュエーションですよね(笑)。

 

いや、今の小学生にも

なくなってしまったかもしれませんね。

 

 

 

そして

いかにもストーリーを創作しました

って感じの「無理やり感」が全くなく

全編、自然と吸い込まれるように読めてしまいます。

 

漢字とひらがなのバランスも見事で

大人でも子どもでも間違いなく楽しめます。

こういう小説には滅多に出会えません。

 

 

 

興味深いのが

 

少年が唯一の頼りだと思っていた母親が

物語が進むにつれて遠ざかっていき

 

母親以外の登場人物

前述の「押野くん」や

少年を優しく見守ってくれる「ベテランの女性担任」

そして、何と言っても「おじいさん」

 

・・・といった周辺の人々の方が

 

狭かった少年の世界を拡げ

少年を支えていくことになる点。

 

ここに凄く大切なメッセージが込められている気がしました。

 

 

 

 

 

この「しずかな日々」が

中学受験の国語の問題の出典として取り上げられやすいのは

 

単純に問題を作りやすいからではなく

 

作品に込められた世界観が

各私立中学校の教育理念に合致する部分が大きいからだと思います。

 

 

明日以降も、もう少し続けます。